グローバリズムへの抵抗

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「朝日新聞はグローバリズム礼賛だ
 どうして欧州のナショナリズムを否定するのだ
 グローバリズムは格差を拡大する
 故に朝日新聞は格差の拡大を肯定するのか」

 
こういう批判が、保守論壇の方からあったようだ。
互いに批判する事は、それに反論する事で、
互いの言説の領域を広げる事になる。
 
あまりにも他愛ない、とも思ったが、
グローバルな複雑性という点で、正面から
反論するのはそれなりに苦労がいる。
 
まず、欧州のナショナリズムというのは、
「EUというグローバリズム」に向けて行われているものである。
そしてEUは、内部に対するグローバル・システムと、
外部に対するグローバル・システムを持つ。
 
内部に対してはEUの統治を行い、
外部に対してはEUとしての交渉の主体となる。
 
日本を先進国として、
グローバル・システムによる格差拡大というのは、
新興国の低賃金による競争力によって
先進国に対してデフレ圧力がかかる事を示す。
 
朝日新聞が
グローバリズムを礼賛したところで、
格差拡大になるような線形の関係はなく、
非線形の影響関係にあるかと思われる。
 
EUが安定していた方が、
日本の労働者にとっては好ましい事だろうと
判断して、欧州のナショナリズムを
朝日新聞が否定した、という思考は
それはそれで筋が通っているし、
さりとて、それも非線形な関係と
言ってもおかしくはない。
 
一般的な感覚としては、国際関係が安定していた
方が、需要が安定するので、工場の稼働を
望むならば、欧州のナショナリズムは程々に、
「日本の労働者」が望んでもおかしくはない。
 
格差解消のために世界の労働者は団結できない。
不況やデフレ、通貨安は輸出できる。
インターナショナルの夢は終わった。
 
ここまでが回答で、
僕が疑問に思っているのは、

グローバリズムにはナショナリズムによって
対抗可能で、排除できるものであり、
故に、対抗しなければならない

というテーゼを、保守論壇がどこまで信じているのか、という点だ。
 
例えば「日本人はこんなに素晴らしい」
「天皇陛下の人徳」といった内容が、BBCで好意的に報道
されたとする。これは、日本人にとって嬉しいとされるべき
事であるが、
こういった報道システムにより、世界に国の美点が知れ渡る
という事象を「グローバリズムだ」といって批判する人は少ない。
 
良いグローバル・システムと、悪いグローバル・システムは
峻別できるものなのだろうか。
日本にとって良くても、海外にとってはどうか?その逆は?
 
グローバリズムというものを、
「北米大陸に峻厳とそびえ立つ、悪魔の陽炎のようなもの」
といった感じの、漠然としたイメージしか伝わってこないのが
非常に気にかかっていて、
彼らは「悪」と戦うためにナショナリズムを鼓舞しているだけで、
本当の「グローバル・システムの姿」はどんなものであるかを
知ろうとはしていないのだな、と現時点では思っている。
 
だが、それを稚拙だと笑えるようで、笑えない。
僕らは一体、誰を主人として働き、
何と取引しているのか、
その不安感によって、僕らはグローバリズム/グローバル・システムを
「不気味なもの」として見せられている。
 
トランプ大統領を支持するアメリカ国民というのは、
その「不気味なもの」を敵としているのであって、
グローバリズム=アメリカニズムという図式ではないのは
言えると思うのである。
 
グローバリズム、グローバル・システムとアメリカの関係、
アメリカのエリートと労働者の分断、
このあたりを日本の保守層が総括しないまま、
朝日新聞を批判しているのは、何とも言えぬ
妙味を感じさせる。
 
ジョン・アーリが引用するところの、
大前研一による「ハイパー・グローバリズム」、
これに対応する形で出てきた保守層のグローバリズム批判と
いうのもやはり、「アンチ・ハイパー・グローバリズム」
に落ち着いてしまった感はある。
 
これはもっとも、保守層の常套手段で、
「ハイパー個人主義」に対してコミュニティの再生を
叫んでみたりするようなところはある、
極論に対する反論というのはどこまで有効なのか、
「例外状態」とは何なのか、という、ホモサケルシリーズ
を読んで再びこの問題を考えてゆきたい。


この記事について
このページは、2019年1月4日の午後5時02分に最初に書かれました。
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