書き出し小説・採用分(2)

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。
書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、
諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。

書き出し小説大賞:天久聖一先生のデイリーポータル記事一覧

秀頼公は、九州へ落ち延びた。
薩摩の荒寺で、蟇蛙の供養をする狂僧に変装したのである。

排気ダクトに揺れる風鈴に、芳子の夢は膨らみすぎるほど膨らんだ。

明け方の八百八町に呼子が木霊する。
半鐘が鳴り尺八の朝練が始まった。

川のせせらぎ。遊ぶ童たち。
独り、万力で胡桃をひたすら割っていく私。

負け越した横綱は、池の鯉を、只、黙って眺めて居た。

この窓から隣の病棟が見える。自販機で、珈琲を買っている。

団地から工場への小径は、
ずっと荒いコンクリートの路面で、自然に繋がっている。

長い夜道を、牛丼屋に向かって、真面目に歩く。
胸を反らして両手を振って。

吉田の生々しい経歴に一同驚いていると、
もう一人の吉田がレモンサワーをこぼした。

枯草に埋もれた私の掌に、冬の鉛が流し込まれた。

桃源郷からの帰路は、石畳の路であった。
眼前には広大な駐車場があった。

その本屋には伏線があり、あとがきがあり、
まるで本そのもののようだった。私は栞を挟んで、眠ったのである。

みぞれが墓場を叩く頃、和尚さんの読経は寝言に変わってゆきました。

本当は、パチスロと砂風呂大好き、春樹です。

盛り塩は雨ざらし、壁のペンキが乾く前に降る春の雨である。

腰の革袋に牛乳を入れ、一日馬と遊ぶと、
蒲鉾のようなチーズができる。

本来、ソーセージとは、肉を使ったジョークでしかなかったのです。

秘書の香水を悪戯に、首元にかけていると、社長室のドアが静かに開いた。

柔らかな草原、鄙びた馬小屋、青い空と山脈。吊り橋を潜れば、
君の入る刑務所だ。

夏の墓地に、ゆっくりと、巨きな錠前をかける音が響き渡った。

夢の中の妻が遠い。初夜に見た夢から今までずっとだ。


言い訳めいたもの

回数を重ねるにつれ、より短文でないと採用されない傾向にある。故に、より短い文章で世界観を作りあげないといけない。お題のネタ的なものも混じってきた。規定部門については、わかりやすく、ネタ的でないといけないようで、他の世界観という「混ざりもの」は、避けられる傾向にある。その混ざりものを評価された事もあったが、このあたりの塩梅は難しい。「夢の中の妻が遠い…」は、本来自由部門で応募したのだが、規定部門での採用となっていた。これは、「再会」というテーマだった。

何にせよ、アイディアも枯渇傾向にある。ネタものはともかく、この一文から、本当に短編小説を書こうと思えば書ける、という書き出しを目指しているのだから、それ相応の重みがある。このように、書き出しだけの訓練をしている間に、何篇か、短編小説ではあるが、書き上げる事ができた。書き出しは、何らかの訓練にはなっているのだろう。今のところ、書き出せば書き出すほど、一篇の小説を書き上げる事ができない…というジレンマからは無縁であって、それは幸福な事だと思っているのである。


(3)へ続く


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