書き出し小説・採用分(1)

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。
書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、
諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。

書き出し小説大賞:天久聖一先生のデイリーポータル記事一覧

ヤンママ・カップのトロフィーがロバートの試金石となったその日、
マリーは飼い犬と共に三つ子を生んだ。

幽霊列車が、旅行社の旗をなびかせて、黄泉比良坂をゆっくりと登ってゆく。
ネズミのチッチが、嬉しそうに笑う。

山荘のテラスで円周率を詠唱する貴顕紳士に、若さと香水が忍び寄る。
伏し目がちな伯爵令嬢、ミス・ガウス曲線だった。

その老人は中年のメイドに、長い寓話を語り終えた。
と同時に、手話の動きも止めた。暗号であった。
彼女は巾着を鷲掴み、小豆問屋に走った。

イブの夜に、干し椎茸を水に戻し、クリスマスの早朝に、
戻し汁を漆器の器で頂く。我が家の、比較的新しい風習だ。

喫茶店の中までガムを噛んでいると、マスターの友達が懐紙を呉れた。
よく晴れた日であった。

不安定な一人称の海の中を、私は潜水していった。
夢でいつも見る潜水艦を叩いてみると、中には亡妻がいた。

骨董市をぶらり水石を購入。立ち蕎麦を食い公園で一服。
寄席の前で荻元先生に会う。火星人の話などする。

猿の寝息で目が覚めた。夜の帳に濃厚な「猿」の存在感。
一緒に暮らし始めて三年になる。

残雪、そして寒梅。象人間の足跡が、
ゆっくりと山間のホスピスへと続いていく。

荻元先生は、生きている間に銅像ができて嬉しい、
と、サイダーを一気に飲み干した。

天然パーマの中で遊んでいると、マリーが来た。
灯台守がお出ましね、とウインクした。

山中で電波調査をしていると、子供の売り子が寄ってきた。
良い砂時計があるから買わないか、と云う。

帰郷に遅れ、祭りの後は、誰もいなかった。
夜風の中、ウイスキーの瓶を、野牛が咥えていた。

立て掛けた旅荷が崩れ、勢い硝子戸が割れた。
倫敦から帰ってきた寒い朝の、乾いた土間。

ひとしきりの雨、クローン人間と深いキスをした。
宿は、生徒会室だ。

廊下で寝る、と父は言う。野良猫を見張るために。
翌朝、父は官憲に連れられていった。

小さい缶に大豆を詰め込み、坂道から落とす。
罪悪感で足の裏が痒くなる。

青年工員の私は、その日、虹を見た。
研磨しぬいた鉄板に、七色に映った。

真夜中、路地に這って苔を舐めた。何の音もしないのである。


初書き出し小説、初投稿、殴り込みの心算だった

読者の欄的なもの、
正確に言えば初投稿じゃないけど、
本気になってやったのはこれが最初だと思う。

俺が一番面白いと思って、開始している。
そんなわきゃないが。

自分の経験、何かの過去の感情が印象的に残っていて、
そこからの連想で、一場面ができる事がある。

そのポイントになるところを思い出し、形作っていかなければならない。
もやもやとした感情が、一塊のイメージになるのである。

それを思い出すタイミングは、季節であったり、
直近の出来事であったりする。突然、良い経験をして
それを基にするというわけにはいかないのであった。


(2)へ続く


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