書き出し小説 自選集

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・焼香の列が台所まで伸びて、婆ちゃんが無言でお米を研いでいる。

・排気ダクトに揺れる風鈴に、芳子の夢は膨らみすぎるほど膨らんだ。

・枯草に埋もれた私の掌に、冬の鉛が流し込まれた。

・賭け麻雀で停学になった先輩が、屋上でトランペットを吹いている。

・競売の終わった家の庭に、冬の蝶がひらひらと舞っている。

・白線の外側に死がある。この病棟には白線はない。

・香典ドロボーは、もう一人のあたし。

・手品師と占い師が睨み合ったまま、空調の音だけが廻り続けている。

・汗かきベソかきバケツリレーは、笑いなしの降霊術に変わっていった。

・北ウイングに待ち合わせた未亡人たちは、和服で凛として立つ。

・夏の墓地に、ゆっくりと、巨きな錠前をかける音が響き渡った。

・真夜中、路地に這って苔を舐めた。何の音もしないのである。


この記事について
このページは、2017年6月4日の午前9時38分に最初に書かれました。
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怪文章のようなものもありますので、回覧にはご注意下さい。
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