・焼香の列が台所まで伸びて、婆ちゃんが無言でお米を研いでいる。
・排気ダクトに揺れる風鈴に、芳子の夢は膨らみすぎるほど膨らんだ。
・枯草に埋もれた私の掌に、冬の鉛が流し込まれた。
・賭け麻雀で停学になった先輩が、屋上でトランペットを吹いている。
・競売の終わった家の庭に、冬の蝶がひらひらと舞っている。
・白線の外側に死がある。この病棟には白線はない。
・香典ドロボーは、もう一人のあたし。
・手品師と占い師が睨み合ったまま、空調の音だけが廻り続けている。
・汗かきベソかきバケツリレーは、笑いなしの降霊術に変わっていった。
・北ウイングに待ち合わせた未亡人たちは、和服で凛として立つ。
・夏の墓地に、ゆっくりと、巨きな錠前をかける音が響き渡った。
・真夜中、路地に這って苔を舐めた。何の音もしないのである。
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