古い喫茶店のドアに、一枚の張り紙がしてある。
「この店で、偽物の五百円玉を使った人が居ます。」
常連のヤマっさんが、その張り紙をちらと見て、喫茶店に入る。
「ママ。どうしたの」
ママは、椅子に座って、俯いていた。ヤマっさんは、おどけて、
「どうしちゃったのよ」
と笑うが、ママは、俯いたまま、涙をこぼした。
「あたし…。お客さんを疑う事なんて」
続けて、学生連中3人組が、入ってきた。デブ、のっぽ、チビだ。
「おばさん。どうしたの」
ママは、悲しそうに笑って、ゆっくりと目を伏せた。ヤマっさんは、
「どうしたもこうしたも、あるかよ」
と、ドカっと椅子に座った。三人組も、椅子にちょこんと座った。
ママは、そそくさと、スパゲッティを作り始めた。
ヤマっさんも、三人組も、スパゲッティを頼むのを常としている。
「こんな事はじめてだぜ」
「本当、本当」
「犯人は、誰だ」
ヤマっさんは、テレビを勝手につけて、ぼんやりと見ている。
スパゲッティができた。ママは、奥へ引っ込んでしまった。
ヤマっさんと三人組は、スパゲッティを食べた。
ヤマっさんが、ぼんやりしながら、
「俺かも知れんなあ…」
とだけ、言った。三人組は、
「ええ。そうなんですかい」
「しかし、何でまた」
「本当の事とも思えない」
などと、口々に言った。
「ママ、そのコインを、見せてくれるかい」
ヤマっさんはママを呼んだ。ママは、一枚のコインを持ってきた。
それは、五百円玉の、エラーコインだった。
「これは、エラーコインなんだよ」
ヤマっさんは言った。ママは、きょとんとしている。
「造幣局が、作るのに失敗したコインなんだ」
三人組は、囃し立てた。
「やあ、やあ」
「偽物のような、ものじゃないか」
「これは、驚いた」
ママは、まだ、きょとんとしている。
ヤマっさんは、笑いながら、
「エラーコインというのはだな…」
と説明しようとした。すると、ふっと、停電になった。
「あれ?停電か?」
そのまま、喫茶店は、闇に呑まれた。
三日後、闇が晴れた。
喫茶店の跡には、石碑が残されていた。
石碑には、こう書かれている。
「作業のポイント」
その石碑の前を、腰の曲がった老婆が通り過ぎる。
「はて…?」
知らぬ老婆は、そのまま立ち去ろうとした。しかし、天から、一筋の光が
老婆を照らした。老婆に、天使が憑依した。
老婆は、託宣を述べた。
「物語のエラーを、今こそ、修正せん」
光があった。
再び、喫茶店。
ママ、陽気に笑う。
「なーんだ。そうだったの。で、いくらぐらいするのよ」
「ダメだ、これは、俺んだ」
ヤマっさんもおどける。
三人組は、ふざけて、おどけて、踊っている。
あったかい、喫茶店の、いつもの風景だ。
終
この記事について
このページは、2016年1月12日の午後4時59分に最初に書かれました。
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