子供コンサルのプロローグ

with コメントはまだありません

#Sponsored


都会で倦んだ、けだるい空気は、この駅に降り立って、霧のように晴れた。
男は、その小さな駅の駅前で、静かに微笑んだ。

行くあてどもなく、何となく気になった駅の名前を聞いて、そこで降りた。

「猿町」である。田舎ではあるが、駅前はしっかりと賑わっていた。
観光地ではないので、生活の店がほとんどであったが、
それは逆に、旅人にとって、清涼感をもたらすものでもあった。

駅前案内所があったので、そこで、今夜の宿を決める事とした。
温泉が出ているので、温泉のある宿はないか、と思った。
案内所には、サルが居た。ひどく飼い慣らされており、椅子にしっかりと座っていた。
まるで、着ぐるみのサルのように、真面目に座っていた。

「良い宿はありますか?」
「そうじゃねえ。どんな宿がええかね」
「この街の事を知りたいのです…」

案内所の男は、サルに引き出しを開けさせ、
一枚のパンフレットを探させた。サルは、真面目にパンフを探し、男に渡した。

「山田さんのお婆さん、がええんじゃないかと思うよ」

サルは、男に、愛想笑いをし、奥の部屋へと引っ込んだ。まるで、気を遣うために中座するようにだ。

「あんた、サルに好かれているようやけんね。猿町の事、知ってもらうのありがたいね。
山田さんにはメールしておくから、送迎車に乗って、行くと良いよ」

男は、山田さんのところに泊まる事に決めた。外のベンチで座って待つように言われ、
しばらくすると、軽装で旗を持ったサルが来た。

サルは、男に微笑んで、車のところまで来るように促しながら、先導した。
車は、軽トラックだった。軽トラックの、荷台に、サルと一緒に乗った。

車に揺られながら、サルは、伏し目がちに、やさしく、佇んでいた。
サルは、小奇麗にしており、少し、温泉の香りがした。

車が止まった。男は、サルに別れを告げ、サルは、
一礼して、そのまま荷台に乗って帰っていった。

山田さんの家は、豪農の家のようで、大きな家であった。
車が去ってからほどなく、大柄のサルが、出迎えた。

陽気なサル、ずっと、ウッホウッホと笑っているけれども、
根はやさしそうな感じだった。

そして陽気なサルは、男を、囲炉裏端に案内した。
囲炉裏端では、山田のお婆さんが座って待っていた。

「ホホホ。よう、来なすった。猿町」
「サルが多いですね…」

お婆さんは、こんなものしかないけれども、と、煎餅とお茶を出してくれた。
夕飯には、ご馳走が出るそうで、それが楽しみだ。

一服していると、女性のサルが、案内するのでついてきて下さい、
と促した。言葉を発するわけではないが。

案内されたのは、小さな部屋の、美術館だった。
「サルたちの芸術展」と書かれており、サルが作ったであろう、
造形や絵画があった。驚く事に、造形も絵画も、
人間のように意味をもって作られた、具体的かつ現実的なものであった。

造形や絵画の下には、サルの写真と、名前が書いてあった。
その中に、先ほどの陽気なサルの作品があった。

人間とサルが、肩を組んで笑っているブロンズ像であった。男は、
それを見て、女性のサルに微笑んだ。

女性のサルは、微笑み返して、これで案内は終わりだから、
元の囲炉裏端に戻るように、促した。

囲炉裏端に戻ると、誰も居なかったので、男は、
温泉に入ろうと思った。

「男」「女」「雄猿」「雌猿」と、4つの温泉の入口があった。
男は、「男」に入った。

男の人も既に、二、三人、入っていた。お互い黙っていた。
サルは愛想が良いが、人間はドライであった。

温泉から出ると、午後5時になっていた。囲炉裏端に戻ると、
既に、幾つかの鍋を囲んで、四、五人が鍋をつついていた。
男は、お婆さんを見つけて、その鍋の近くに座った。
小柄の、賢そうなサルもいた。

「この子も、一緒に食べるけど、構わないかね?」
「ええ。良いですよ」
「ほうか。街の外の人は、嫌がる人も、おるからね」

お婆さんもサルも、屈託がなかった。他の人間たちも、
屈託がないように思えた。鍋を食べながら、

「この街はね、昔っから、サルと暮らしてきたんだよ」

とお婆さんが教えてくれた。男は、

「どのくらい昔からですか?」と尋ねた。お婆さんは、

「縄文時代の、中頃って言われとる。稲作より、
サルと暮らす方が、早かったんじゃよ…」

と、遠い目をする。男は、縄文時代に、
サルと人間が暮らす世界を想像した…。夢のような、悪夢のような?

男は、食後、ロビーでくつろいだ。サルたちももういない、
ロビーで一人だ。すると、外で、大きな咆哮がする。

サルのような声だけれども、とても野性的で、野蛮で、
攻撃的な声だ。遠くからの叫び声だ。
野生のサルが、いるのだろうか。

翌朝、その事を、お婆さんに尋ねると、

「ああ、あれかいの。裏の山奥にな、飼い慣らされておらぬ、
たぐいの、サルどもがおっての」

と答える。男は、少し怖く思い、

「悪さはしないのですか?」

と聞いてみた。お婆さんは、

「うむ、悪さはしないよ。ただなあ、山の奥には、
絶対に入れぬのじゃよ。連中、自給自足だで」

昨日の、賢そうな小さなサルが来て、この話を耳にすると、
少し小馬鹿にしたように、首をすくめて、

「ヒヒッ!」

と笑ってみせた。男は、山に入ってみたくなった。そこで、
お婆さんの家をたち、街を散歩してゆっくり帰る、と嘘を
ついて、山の中に入ってみる事にした。宿代は、7500円であった。
宿代は、部屋まで、サルが取りに来た。領収書を持って。

男は、山の入口まで来た。入口に、小さな祠がある。
そこでお参りして、山に入る事にした。

特に封鎖もされておらず、見張りもおらず、
道もキレイに整備されている。
あのお婆さんの言った事は、本当なのだろうか。

サルの気配もなく、鳥や虫が、鳴くばかりだ。

広い山道を歩いていると、ふと、右手の山側の、
森の方に、上へとのぼる、山道の石段がある。

見上げてみれば、そこから、妙な空気が色濃い。
もしかして、こちら側に、野生のサルがいるのだろうか。

好奇心から、男は、山道の石段をのぼってみた。
50段ほどのぼってみると、少し広い踊場があり、
そこに、ベンチがあったので休んだ。

少し、ボーっとして、水筒の水を飲んだ。

気が付くと、隣に、サルが座っていた。
タバコをのんでいる。サルは、男に、

「あんた、下の里から来たの。珍しいね」

と話しかけてきた。男は驚いて、二の句がつげない。
サルは、下品に笑って、

「アハハ。山田のばーさんに、騙されなすったね。
わしらは、モノ言うサルだで、山の方で暮らして
おるんじゃ。悪さはせんよ」

と、一気に話した。男は、再び好奇心が膨れあがって、

「このあたりに宿はありますか?」

とサルに聞いた。サルは、

「ふむ。あんた、面白いね。面白い卦をしてるよ。
あんた、山田のばーさんのところ、
いくらで泊まったの?」

と問う。男が答えると、

「じゃあ、同じ値段で泊めてやらあ。ついてきな!」

サルは、ゆっくりと、石段をのぼりはじめた。男は、
それに続いた。サルは、途中で腰を押さえて立ち止まったが、
そのままゆっくりと階段をのぼり切った。

階段をのぼると、そのまま石畳の開けた広場があった。
ここが集落の中心らしく、中央には石の塔碑があり、
左右には市が並び、その奥には住居がある。そして正面には、
鳥居があり、神殿のような建物があった。

「お館に、会ってゆくといい。どうするかね?」

男は、お館に会う事にした。市を通り抜けて神殿に入る。
厳かな、和風の建物であった。中を進んでゆくと、
大きな部屋がある。襖を開けて入ると、そこには、
オオザルが居た。胡坐をかき、半分眼を瞑っている。
男は、畏怖の念をもって、少し前に進んだ。

「ふむ」
「お館、人間にござる」
「さようか」

お館は、無口であった。そのまま対峙して、
案内のサルに促され、部屋の外に出た。

「お館は、お前さんの事を気に入ったようだぜ」
「そうなのか?」
「山鳥だの、クマだのの肉があるし、山菜もある。
俺たちゃ、モノを言えるサルなのよ」

「そうか…」

その日は、案内役のサルの家に泊まる事になった。
サルには嫁と子がおり、サルであるという事を除けば、
人間らしい暮らしというべきだった。テレビはないが、
雑誌やラジオがあった。

その夜は、肉とパン(!)を食べ、眠った。

布団に並んで寝ながら、サルは男に語った。

「モノを言えるサルは、この山奥に住む決まりなのよ」
「そうなのか」
「そうとも」

サルは、静かに溜息をついた。

「同じ知恵のサルでも、モノを言えなきゃ、
人間の社会に出ていく事ができる」

「そうか…」

男は、最近、そう云えば都会で歩くサルを時々見かける、
と思った。あれは着ぐるみなのかと思っていた。

「サルでも、黙っていれば、おとなしけりゃ、着ぐるみみたいなもんだよ」
「そうだな」

サルは、自嘲気味に笑って、

「里のサルみたいに、黙って、おとなしけりゃ、
仕事だって見つかるんだけどな、モノを言うと、人間が怖がる」

「そうかも知れないな…」

男は、山のサルと里のサル、どちらが幸せだろうかと考えた…。
そして、そのまま、眠ってしまった。

翌朝、外に出てみると、市の数が増え、益々賑わっていた。
人間が、市場に商品を求めてきている。

坊主、神主、漁師、猟師、農民、土方、日雇い、旅芸人など…。
山のサルと人間が、自然と触れ合っていた。

男が、市場を練り歩いていると、案内役のサルが近寄ってきて、

「ちょっとな、お館様が、用事あるんだと、会ってくれ」

と言う。男は、サルと共に神殿に向かった。

オオザルは、胡坐をかいていた。昨日と違うのは、
きのこたちが、オオザルを囲んで戯れている事だった。
きのこたちは、非常に無邪気だった。オオザルは、寡黙に、

「うむ…。」

とだけ、言った。案内役のサルは、男に、

「実はな。このきのこたちを、都会に連れていってほしいのだ」

と言う。サルは続ける。

「このきのこたちは、俺たちの、仲間さ。ちょっくら、俺たちも、
稼がなきゃならん。それでな、きのこを、
出稼ぎに出したいのよ」

と、真面目な顔をして言う。男は、直接的に、

「金がないのか。欲しいのか」

と聞く。サルは、

「そうだ…。きのこたちは非常に賢くてな、
山では仕事がないのよ。頼むよ」

男は、引き受けてみよう、と思った。どうせ、
会社に帰れば、窓際族だ。

部下のいない部長だが、人事権はある。
きのこを、部下として、連れて帰ればよいのだ…。

「あまり給料は出せませんが、よいですか」
「よいとも…。きのこたちと、ちょっと話してごらん?」

男は、きのこたちと少し話した…。5分話すだけで、
きのこたちは、非常に優れたプログラマである
事がわかった。

また、きのこたちは自立を目指しており、
山に仕送りなどしないようであるなど
聞いた…。給料や待遇の面では、しょせんはきのこ、
簡単に折り合った。

そして、男ときのこたちは、山を一緒におりる事になった。
風呂敷包みを担いだきのこたちが、オオザルの前に整列した。

「お世話になりました…お館様」
「うむ…、辛かったら、帰っておいで」

そのように言う、オオザルの眼から、涙が零れ落ちた。
案内役のサルも、きのこたちも、男も、みな泣いていた。

山の夕日を背に、男ときのこたちは、
山をゆっくりとおりていく…。

(終わり)


この記事について


このページは、2016年1月12日に最初に書かれました。
その後も、内容を更新したり、削除したりする場合があります。
古い記事は、内容が古くなっているか、間違っている場合があります。
その場合でも、訂正や修正をしない事もあります。
また、記事は、用語の厳密性に欠き、表記揺れも含みます。
厳密な調査に基づいた記事ではありません。これは筆者の主観です。
怪文章のようなものもありますので、回覧にはご注意下さい。
自分でも、「馬鹿が馬鹿言ってる」と思うような記事もございます。


SiteMap | ページ一覧 | サイトマップ