火星旅行

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銀河鉄道を降り、火星のプラットフォームに立つ。遠くのスフィンクスとピラミッドに靄がかかっている。俺は風呂敷包みを背負って、日賃宿を探す。最近ではアンドロメダ星雲への旅行が流行っていて、ビジネスの中心地は太陽系の外である。今時、火星にスフィンクスとピラミッドを見に来る連中など、俺ぐらいだろう。

シャッター通りを通り抜け、細々とやっているコンビニで弁当を買い、垢抜けた広場でそれを喰う。俳句の同人誌に宇宙旅行の俳句を提出しなくてはいけない。詠みどころと言えば、何だろうか。

空を見る。太陽が煌々と輝いている。展望台に行ってみよう。

展望台までの坂道を上がっていくと、もし、と声をかけられる。貴方は、あの力田石次先生ではないですか、と老婆。俺がそうだ、と応えると、老婆は、自分も俳句を詠む、お爺さんが墓の中で待っている、火星には最近若い人が居なくて寂しい、良かったら、うちは民宿をやっているのだが、泊まってくれないか、と懇願してくる。

俺は二も三もなく、老婆の民宿に泊まる事にした。川べりにある民宿は、川で取れた魚料理が名物で、最近では地球の魚よりも美味しくて、脂が乗っているのだと言う。俺は、部屋の窓から、流れる川を見、そして太陽を見た。

センチメンタル火星の宿の老婆は白髪染め
火星の旅館畳でごろり
時計の針が止まっている部屋である

俺は自由律俳句をやっている。二、三句、詠んだが、どうも気に入らない、テレビを点けると、アンドロメダ星雲の競馬がやっている。今日はナポレオン賞だ。どうも痒くなってきた。畳に何か居るようだ。人類の文明は、蚤、しらみの類を絶滅させなかった。

面倒になり、夕食まで昼寝しようと思い、ウオッカを呷って眠りについた。古い畳だから虫が居るような気がしたのだが、やはり流石に蚤、しらみ等は居なかったようだ、目覚めたら痒みはなかった。よく眠ったような感覚はなかった。テレビは点いたままで、やはりアンドロメダ星雲の選挙の話題である。この世の中心はアンドロメダになっている。少しは銀河系の話題もすれば良いのだが、銀河系の話題は、視聴率の低い時にしか放送しないのである。銀河系の話を聴きたければ、やはり今の時代もラジオである。

火星の夕暮は、赤が濃くて、色眼鏡で見るよりも、もっと赤い。血塗られたようだ。そして夕暮の時間が長く、ずっと真っ赤に染まっている。老婆が料理を持ってきた。鮎の塩焼き、蛤の佃煮、沢庵、ワカメの味噌汁、そして火星蛸の蛸飯。蛸飯は、おひつ一杯にあるという。他に宿泊客は居ない。火星に到着してから、まだ十人ほどしか人間を見ていない。昔の映画なんかを見ると、火星は、今よりよっぽど近代的で、豪華だった。26世紀の今、火星は、21世紀に取り残されてしまったかのようだ。しかし蛸飯はうまい、この味だけはずっと変わらない、アンドロメダにも火星蛸は輸出されるほど、まず火星は火星蛸で持ちこたえている。


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