パパの遺言テープ

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パパが亡くなってから三年、書斎を片付けていたら、カセットテープがひとつだけ引き出しの奥にあった。ママが留守の間にそのテープを聴いてみようと思ったあたしは、ラジカセにカセットテープを入れ、再生ボタンを押した。

『良子、すみれ、このテープを聴いている時、パパはもうこの世に居ない。良子、ずっとずっと有難う。すみれ、大丈夫か、変な男に捕まっていないか。もう遺産分割は終わっているか?終わっていないなら、このテープをこれ以上先、聴くのはよしなさい。もし終わっていたなら、この先を聴いて欲しい』

相続は、パパが亡くなった翌年の二月に終わっている。あたしは続きを聴く事にした。猫のミーちゃんが、あたしの膝に乗った。

『驚かないで、聞いて欲しい。パパは、死んじゃあ、いないんだ。黄泉の国から、たくさんの、宝物を持って帰る為に、死んだのさ。パパのお墓の前で、”曼珠沙華は充分だ”とお唱え。そうすれば、パパは』

ここでテープが終わっている。ママが買い物から帰ってきた。あたしが内容を説明すると、ママは、

「そうねえ。パパは、妄想癖があったから、そんなの絶対嘘よ」
「でもトライしてみる価値はあるんじゃない?」

パパの墓は、家のお庭にある。松の木の下だ。あたしとママは、サンダルを履いて庭に出て、墓石の前に立った。ママが言うか、あたしが言うか、決めかねていると、猫のミーちゃんも墓石の前に来て、にゃんにゃんと笑った。

あたしが言うわ。

「曼珠沙華は充分だ」

その夜、あたしとママは、湯豆腐を食べた。パパの好きだった湯豆腐だ。何も起こらなくてほっとしたけれども、ひどく疲れた。あたしは泥のように眠り、朝、目覚めた。やっぱり何も変わっていなかった。

パパのネクタイピンが、リビングに射し込む朝の光で、キラキラ光っている。パパの気配は、まだ、この家に、濃厚に残っているような気がして、あたしとママは、顔を見合わせて、肩をすくめたのだった。


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