冷たい水

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思えば、あれが最も非人間的な時代であった。
時は流れ、影法師よこんにちは、が流行。
私のわの字は、輪ゴムのわ。

構わない、構わないと、貴女は消えたけれど、
酒の味、すっかり忘れて、お灸を据えて。

私は、そこまで翻訳したのだけれども、次第しだいに、
眠たくなってきた。冷たい水でも飲もう、と思って、
蛇口を捻った。冷たい水が出た。

私は、冷たい水を飲んだ。冷たすぎる、と思った。窓の外を見たかったが、
この三鷹の家には、窓がない。我慢して翻訳を続けようと思った。
少し、何か、食べたくなった。それも我慢した。

何時の間にか、眠ってしまっていた。原稿を見ると、
日本語でなく、ラテン語に訳してしまっていた。

昨日、何のために冷たい水を飲んで我慢したのだろう、
と思った。雑誌でも読もうと思い、南欧の雑誌を手に
取ったが、重くて、持てない。手に力が入らない。

冷たい水なら持てるだろうか。バケツに、冷たい水を入れてみた。
バケツもまた、持てなかった。

しかし、バケツは持てた。空のバケツなら、持てたのである。
私は、何もかも空しくなって、空を仰いだ。
そこには、窓がなく、空がない。

それを思えば、私に、情熱が満ち溢れてきた。
しかし、膝が崩れた。立っていられない。

血圧を測ったら、何とか測りおおせたのだが、
上が500、下が320だった。

何時もよりも低い、と大笑いして、
そのまま這って台所に行き、粗塩を舐めた。

粗塩を舐めた。
舐めるというより、食べた。
また、活力が湧いてきた。

冷たい水も飲みたくなる。次第しだいに、歩けるようになり、
物も持てるようになってきた。

冷たい水を飲んだ。蛇口を捻って、コップに注いだ。
翻訳の仕事を、続けよう、と思った。血圧は、益々上がっているようで、
テンションが上がってきた。

叫びながら、翻訳の仕事をしよう、と思い、念じた。
目の前がパアっと明るくなった。開眼したようだった。

気付いたら、私は、ずっと、
翻訳の仕事をしている。

眠っているかどうか、わからない。
ふと、何かが気になった。

冷たい水の事だろうか。
高すぎる血圧の事だろうか。

兎に角、何かが気になった。
小さな機械の音も、耳から離れない。兎に角、
延々と翻訳を、休まずにしております、
最近のワタクシであります。

(終)


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