ふるさとの風景

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お婆ちゃんの棺桶の蓋が開いたままでした。実家の方からそう言ってきました。わたしは、高校三年生の娘に家の事を頼んで、実家に戻らないといけません。

電車に乗ります。電車は一回だけ乗り換えて、あとはバスに乗ります。実家の方から来たメールによると、お婆ちゃんを火葬したつもりだったがしていなかったそうで、棺桶は納屋の中に入っていたそうです。棺桶の蓋は、馬小屋の中にあったので、気付いたそう。

電車に乗り換えます。またメールが来ました。お婆ちゃんの棺桶の蓋と、棺桶がサイズが合わない。このままでは蓋をする事ができない。あと、お婆ちゃんの亡骸が温かくて、まるで生きているようだって。既に火葬の日から十日以上経っています、真夏ですから、わたしは、腐っているんじゃないの。と返信しました。

バスに乗ります。最終の一個前です。月が出ています。畦道を通って、煙草屋の向かいの中くらいの農家がわたしの実家です。

「あんれー、良子、いきなり来たでえな」
「お婆ちゃん!死んだ筈じゃあ!!」

お婆ちゃんは生きていました。何故甦ったのか、そのあたりの事情がわからないのですが、実家の方の人間も、良かった、良かった、とだけ言っていました。棺桶から甦ったあたりのくだりが不明瞭なのです。わたしは実家の人間を問いただします。

「でもねえ、呼び出されて、どういうタイミングの兼ね合いで、こうなったのよ」
「良子さんねえ。難しい事ってあるのよ。説明するのがねい」

わたしは、はぐらかされているような気がして、棺桶を蹴っ飛ばしました。痛い。つま先が痛い。何て固い棺桶だろう。

「良子お、あだすの入っていだ棺はなあ、樫の木でできているんだで」
「お婆ちゃん!」

樫の木!そう云えば、裏庭に樫の木があった!わたしは、実家の人間もお婆ちゃんも突き飛ばして、裏庭に駆け出します。

「あれ…」

樫の木はありました。いや、それは樫の木ではなく、桜の木でした。わたしの思い違いという事でしょうか。お祝いをするので母屋の方に来い、と、実家の人間が声を出しています。わたしは虫の音に気付きました。

もうすぐ、初秋でしょうか。


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